先日、東京国立博物館を訪れました。館内では、日本の仏教美術だけでなく、インドや中央アジアで生まれた仏教彫刻も展示されていました。インド北西部のガンダーラ地方に残る仏像は、紀元1〜3世紀頃に作られたもので、古代ギリシャの影響を受けた表現が特徴です。こうした作品は、仏像がインドで生まれ、中国や朝鮮半島を経て日本へと伝わっていった道のりを感じさせてくれます。
その中で、特に印象に残ったのは、奈良県の岡寺から出展されていた釈迦涅槃像でございます。


お釈迦さまの入滅の場面は、一般に「涅槃図(ねはんず)」という絵画で表されることが多くあります。沙羅双樹のもとに右脇を下にして横たわるお姿を中心に、弟子や菩薩、動物たちが集う様子が描かれるのが特徴です。寺院では二月の涅槃会に掛けられることもあり、目にされた方もあるかもしれません。
一方で、その場面を立体の「像」として表した作例は多くはありません。今回の涅槃像は、横たわるお姿をそのまま彫刻としたもので、絵画とは異なる静かな存在感がありました。様々な角度から見ることができるため、姿の線や表情のやわらかさが、より具体的に伝わってきます。
同じ題材であっても、平面と立体では表現のしかたが大きく異なります。涅槃図は多くの登場人物を描き込み、場面全体の物語を伝えますが、涅槃像は一つの姿に焦点をあて、その瞬間をかたちにしています。そうした違いに目を向けることも、仏教美術を味わう楽しみの一つではないでしょうか。
同じ香川県の高松市にある仏生山来迎院法然寺にも、涅槃像を中心に、嘆き悲しむ十大弟子や羅漢聖衆、動物の像などを配した立体的な「涅槃世界」を見ることができます。法然寺では、釈迦涅槃像を含む立体作品が「讃岐の寝釈迦」として親しまれています。
遠いインドから伝わったかたちが、いま私たちの目の前にあることの不思議さを思いました。

